第2章




 「バンんーー、いつまで寝てるのーー??」
 あ、オフクロの声だ。ゲッ、こんな時間かぁ。また早朝ランニングにいかなかったよ。
 おれはブランコ一家に対する復讐に燃える気持ちは強いわりに、自分に甘いんだ。
 まぁ、いいか。メシ食って出かけるとしよう、うん。

 リリリーン。出かけようと思った矢先に電話だ。
 声の主はサニー。このこ、メヒコ注1じゃ有名なプロモートル注2、ドン・ヤングの一人娘。苦手なんだよな、高飛車なお嬢様ってやつは。
 驚くことにサニーはおれに気があるらしい。それを知ってか、ドン・ヤングもおれに結構いいカードを組んでくれたりする。はっきりいってありがたメーワクなんだよな。
 え?電話の用件はなんだって?
 デートのお誘い。シティ注3にあたらしいスシ・バーが出来たから行かないか?だって。
 ん?まてよ??シティにできた新しいスシ・バー??店の名前は、、、?「アミーゴ」?(それにしてもなんて名前の店だ、寒すぎる)、アミーゴっていったら、あのコのいる、、、、あのコに逢える!
サニーにはちょっと悪いけど、この際お誘いにのってしまおう!
 結局、11時にサニーを迎えにいくことにした。

 あのコ、アミーゴで働いているあのコ。名前はモモコといっていた。
 モモコはハポネサ注4。ハポンのエストゥディアンテ注5。休学してこっちに留学生としてきてるらしい。
 なんでおれがモモコのことを知っているのか、それはちょうど1週間前のことだったんだ。

 その日の朝、おれはいつものように早朝ランニングでおきまりのコースを流していたんだ。
 すると道ばたで倒れてるジーサンがいた。横には大丈夫?とジーサンを気遣う女の子がひとり。ジーサンはくるしそうなかおをして、胸を手で抑えていた。女の子は周りをキョロキョロして、誰か他に助けを探していたんだ。
 「ジャメ・ラ・アンブランシア・ポルファボール注6!」
 おれのかおを見るなり声をかけてきた。なんでも散歩していたらこのジーサンが倒れていたので助けようとしたら、まだメヒコに来て間もないらしくアンブランシアを呼ぼうにも、呼び方がわからないらしい。
 おれは急いで呼んでやり、女の子と一緒に病院までつきあった。

 病院でジーサンの治療を待つ間、モモコからいろんな話をきいた。
 留学生ということ、アミーゴでバイトしてること、まだおれがみたことのないあこがれの国ハポンのこと、、、、、
 近くでみると、モモコはすごくカワイイ女の子だった。透きとおった肌。長いまつげ。大きな目。まるでムニェコ注7のよう。
 そんなときに不謹慎だったが、おれはモモコにいっぱつでほれちゃったのさ。

 サニーに連れられいざアミーゴへ。
 お店の雰囲気、特にこのエントラーダ注8 はいったいなんて表現したらいいのだろう。
 これがハポン風なのか?いったことがないので、なんともいえない。でもイメージではたしかにこんなかんじ。以前NESという(ハポンではファミコンと呼ばれてるらしい)ゲームで、こんなかんじのがあったような、、、。たしか、、、KARATEKAってゲームだったっけ?

 店に入りサニーと2人カウンターに座った。辺りをみまわす、、、モモコがみあたらないなぁ。
 カウンターの中には威勢のいい日系人らしきスシ・マスターが「ラッシャイ!」と聞き慣れない言葉を連発している。おれは生の魚が苦手なので、とりあえずアボガドを巻いたカルフォルニア・ロールを注文した。スシをつまみながらマスターに聞いてみる。
 「あの、、、モモコっていうハポネサは?」
 「ん?モモコの知り合いかい?、、、おぉーいモモコぉーーー!」
 モモコだ!カウンターの奧から制服姿のモモコがでてきた。(ハポンではこの制服をハッピというらしい。モモコの話では、ハポンのスシヤではこんなのは着ていないそうだ。)
 横でサニーがなにやら険悪な表情、、、あたりまえか。
 おれ、ずいぶん楽しそうなかおでモモコとはなしていたみたいだからな。

 その日の夜、おれはニンテ・ドーンに行きテキーラをやりながらマリオにモモコのことを話した。
 するとマリオは自分の昔話をおれに聞かせてくれた。

 「10年ちょっと前だったかな、当時あこがれていた女の子が偶然モモコっていう名前だった。おれにはルイージっていう弟がいるんだけどさ、おれと弟でモモコを取り合っていたのさ。 ある時、モモコが悪い奴らに拉致られちゃって、おれたち助けにいったんだよ。奴ら城に篭城しやがって、キノコ頭のへんなやつとか、亀みてぇなへんな手下がいっぱいいてよ、まぁなんとか助けだしたんだけど、苦労したんだぜ。ははは、あの頃はまだまだおれも若かったなぁ。おまえもそのモモコって女の子、守ってやらなくちゃな。」

 スペル・マリオの武勇伝、マリオにもそんな昔があったのか。オヤジもなかなかやるな。
 おれもがんばってみるかぁー。

 「アスタ・ルエゴ!」
 ニンテ・ドーンの帰り道、夜空を見上げると月がこっちをみて笑ってた。

 
そしてちょっぴりいい気分の1日が終わったんだ、、、





注1いまさらですが、、、メヒコはメキシコのスペイン語読みです。


注2プロモーターのことです。


注3メキシコ・シティのこと。メキシコの首都で、メキシコ全人口の10分の1が集中しています。


注4日本人女性のこと。日本人男性はハポネスといいます。


注5学生。ちなみに大学はウニベルシダっていいます。


注6救急車を呼んでください。アンブランシアは救急車。


注7お人形さんのことです。


注8入口のことです。


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