第3章 研究のまとめ
T 研究のまとめ
研究主題である「情報活用能力を育てる学習活動に関する研究」を、テーマに取り組んできた。その結果次のようなことが明らかになってきた。
1、情報教育の目的は、情報化社会に対応した情報活用能力を育成し ていくことである。
情報教育はコンピュータ利用の教育と同義でなく、情報活用能力を育成する教育である。情報活用能力は問題解決能力の一つであり、問題を情報で解決する力とも言える。情報教育の実践に当たっては、協力者会議による情報教育の3つの目標をよく理解することがが大切である。「情報活用の実践力」「情報の科学的な理解」「情報社会に参画する態度」の3つ目標を、それぞれ相互に関連を図りながら、上手な情報の使い手として児童生徒を育成していくことが、情報教育であることがわかった。
情報化社会では、溢れる情報の中から、自分に必要な情報を選択したり、判断する力が求められる。情報教育は、メディアを使って、学ぶ楽しさや課題を追求していく態度を育て、支援していくとともに、児童が情報を選択したり、自分の目的にあわせてメディアを使い、自分らしく生きていく態度を育てていく教育であることがわかった。
インターネットは人々の自由な情報発信を可能にし、高度情報通信社会を一層発展させている。ネットワーク社会で生きていくためには、コミュニケーション能力が求められる。相手の話をよく聞く態度、自分の思いを端的に言い表す能力、相手を思いやった対応の仕方を身につけることなどが今までにもまして必要になる。これらの態度や能力の育成の過程では、心の教育も必要である。メディアを使って、情報交換をし、学び合う中で、人と交流する楽しさを味わえる授業をたくさん経験させていく中で、情報化社会をたくましく生きるための情報活用能力が育成できると考える。
2、情報教育の視点を持って授業することで、児童の学ぶ姿勢が変わっ てくる。
情報教育は各教科及び総合的な学習の時間で行われることになっている。そこで教科等の指導においては、教科と情報教育の目標の達成が求められる。2つの目標を明確に持ち、指導していくことが必要である。具体例を本研究の指導案に、マトリックスで表した。また、発達段階に応じた「小学校おける情報教育カリキュラム」を作成した。マトリックスと情報教育カリキュラムを組み合わせながら、授業では、情報教育という視点をもって児童の情報活用を支援し、育てることが大切である。「生きる力」の育成において、児童が主体的に活動し、自ら問題を発見し、追求していく授業への変革も求められている。インターネットやコンピュータ等の情報メディアは、学習に必要な情報を集める道具である。メディアを目的に合わせて使えたり、情報の所在がわかって、情報を見つけることができるようになると、自分で自分の疑問を解決するために、積極的に情報を求めるようになってきた。情報メディアを学びの道具にできた時(情報活用能力が向上した時)、児童の学ぶ姿勢は明らかに変わってきた。
児童はメディアを使って学習成果を友達や家の人、地域の人に発表した。それを聞いてもらったり、話し合ったりすることで認めてもらえる楽しさを知り、「もう一度やりたい」「もっとがんばりたい」といった意欲が持続した。また、一人一人の学習の成果を伝え合うことで新しい課題も生まれた。情報教育を推進していくことで、ステップアップした課題に挑戦していこうとする児童の主体的に学ぼうとする姿勢も感じられるようになってきた。
情報活用能力は短期間で身に付くものではない。様々な体験を通して、自ら学ぶ姿勢が生まれてきたときに身についていくものではないだろうか。そのために、いろいろな教科指導や総合的な学習の時間の中で、繰り返し行うことが大切である。情報教育のカリキュラムや情報教育を位置づけた年間指導計画を立てて指導をしていきたい。
3、メディアの比較、バーコードの教材化による授業を実施した。情報 化社会の教材化で児童の「情報」に対する見方が変わった。
TVや本などのメディアは児童にとって身近な物であるが、それを教材化することによって、児童は普段の生活を見直すことができた。また、バーコードのような形式的な情報を取り上げることによって、生活の中に存在している情報の大切な役割や人々の工夫をみることができたようだった。児童は情報をテーマに学習したことにより、情報に対する見方が広がった。それが、情報通信ネットワーク等を活用する際に情報の性質を考え、冷静に判断したり、責任をもって発信する基礎となったと考える。何より児童の中で、「情報」「メディア」という言葉が共通語になったことが収穫だった。
情報教育を推進していくに当たり、一人一人が課題意識を持って取り組み、自分で得た情報で学習活動が展開されていくことが望ましいと考える。また、共に学んでいくことが、お互いを高めることになる。自分が高まることによりステップアップした課題に挑戦しようとする意欲がわく。これが自ら学び、自ら考える児童の育成につながるのであると思う。
高度情報通信社会では、情報通信ネットワークの力を借りて、便利な生活や自分の思いをかなえることができる世の中を目指している。どんなに世の中が変わろうとも、人間は一人では生きていけない。情報通信ネットワークは単にコンピュータ同士がコードでつながれているだけではなく、責任ある判断力を持った人間が、システムを作り上げていこうとしなければ、真に豊かな生活を作っていくことはできない。コンピュータに向かっていてもその向こうにいる人の存在を忘れてはならない。
溢れる情報に振り回されず自分らしく生きていくために、情報教育は必要である。身の回りに「情報」が溢れていることを実感し、知らず知らず情報に振り回される自分に気づき、主体的に生きていこうという気持ちを持った児童を育てていくことが大切である。また、情報化社会の本質を見抜き、人間同士のコミュニケーションや、お互いに気遣う温かい心を育てる教育を展開していきたい。まず隣にいる友達と始める話し合いや情報の共有化から、コミュニケーションの輪を広げていけるような学習を展開していくことで、将来の健全な情報社会を建設していけるような児童を育成していきたい。
U 今後の課題
本研究を進める中で、以下のような課題が見えてきた。
1、今回の実践では、情報活用能力を評価する視点がはっきりしていなかっ た。情報活用能力を長期的に見ていける調査方法を考えていきたい。
2、社会科以外での教科指導と情報教育の目標の統合を図った学習を考え実 践していきたい。
3、今回、バーコードの教材化を図ったが、それ以外の情報化社会の教材化 を図り、実践していきたい。
4、総合的な学習の時間においての実践ができなかった。総合的な学習の時 間において「情報」をテーマに、長期的な展望に立った情報教育ができる ように実践を重ねていきたい。