本間 岳史
海抜Om内外の低地帯が広がるオランダ北部では、度重なる水害から土地を守るため、1928年から1932年にかけて、ゾイデル(南)海と呼ばれる入り江を、北海から隔てる大堤防の建設工事が行われました。その結果、ゾイデル海は、アイセル湖という面積約20万haの巨大な淡水湖に変貌し、沿海の漁業を中心に700年間も続いてきた人々の生活が、すっかり変わってしまいました。
この古い歴史と文化を紹介し、後世に伝えることを目的に、1950年に、アムステルダムの北東約60kmの港町工ンクハウゼンに、ゾイデル海博物館が設置されました。当時はまだ屋内展示のみで、700年の湾岸文化の、家屋と生活、
海洋、水との闘いなどが紹介されました。しかし、1990年代には、湾岸沿いに存在していた132の建物を屋外に移築もしくは新築し、1905年に存在したウルクという漁村を復元しました。道路・歩道・小路・街路樹・家具などは、1880年から1930年の頃を復元しました。
![]() |
![]() |
| アイセル湖 | ゾイデル海博物館 |
驚いたのは、当時の村人に扮した64人のボランティアが、これらの建物を使い、当時の生活習慣を忠実に守りながら、かつての村の生活を演じていることです。来館者は、漁具・樽・かご・鍛冶・なめし草・石灰窯・帆布・薫製などの職人や、魚屋・魚市場・肉屋・食料品店・パン屋・菓子屋・居酒屋・おとりガモ屋・床屋・クリーニング屋・薬屋・本屋・農協銀行・学校・教会・郵便局などに勤める村人たちと会話をし、1930年代と同じ食事をして映画館で映画を楽しみ、“生きた歴史”を体験できるのです。のんびりと時間が過ぎてゆく“古き良き時代”を味わえる、一種の“癒し系博物館”といえるかもしれません。ここでは、訪れた親子や、祖父母と孫との間などで、会話がはずみ、世代をこえたコミュニケーションづくりに一役買っているように思えます。
同じようなねらいは、カナダのオタワ南東約70km、セントローレンス川左岸につくられたアッパー・カナダ・ヴィレッジでもみられます。そこでは、セントローレンス川のダム建設により水没する運命にあった1800年代前半の建物が100戸移築復元され、当時の衣装をまとった100人の村人たちが、さまざまな職人や店員として実際に当時の生活を営んでみせています。オンクリオ東部のアッパー・カナダは、カナダ建国の地ともいえる地域で、カナダ人の心のふるさとです。まさに“癒し系博物館”として機能しているように思えます。
さて、ゾイデル海博物館では、1995年には、1930年代のマルケン島の家を復元し、子供たちが昔の島の生活を宿泊体験できる「キッズアイランド」がつくられ、4〜8歳と8〜12歳用のプログラムが用意されています。
![]() |
![]() |
| 村の町並み | 石灰窯 |
博物館スタッフは224人(常勤160人、ボランティア64人)。年間予算は680万ユーロ(政府から470万ユーロ、独自収入が210万ユーロ)。入館者数は屋外25万人、屋内1万人で、減少気味のため、マーケティング・マネージャーを置いて対策を検討中。1993年までは国立でしたが、1994年からは財団営となりました。2002年は東インド会社設立400年にあたるので、テーマは「ビジネス」と「外国人」に設定し、野外博物館の年間テーマは、「行商」です。
(ほんま たけし・副館長兼学芸部長)