埼玉県立自然史博物館 自然史だより 第24号 1994.07

カモシカ特別調査を終わって

松 本 充 夫

 平成4・5年度の2か年にわたり、関東山地カモシカ保護地域において特別調査が実施されました。そこで今回は、この特別調査の概要を紹介します。
 この調査は、関東山地カモシカ保護地域にかかわる1都4県(群馬県・埼玉県・東京都・山梨県・長野県)が国庫補助をうけ、カモシカ(シカも含む)の生息分布や生息密度などを調べたものです。 埼玉県は直営で、教育局文化財保護課、県立自然史博物館が事務局となり「埼玉県カモシカ特別調査団」を組織し、県内のカモシカ保護区で調査を行いました。
 今回は昭和61・62年度に次いで2回目の特別調査でしたが、前回より生息密度調査に力点がおかれました。
 調査結果は多岐にわたりますが、ここでは断片的ながら、生息分布状況や生息密度について調査方法や結果をお話します。
 生息分布調査では、聞き取りとアンケートによりカモシカの分布について調べました。
 カモシカ保護地域や周辺の動物の生態に詳しい人々を対象に、カモシカの生息状況について聞き取りを行いました。またアンケート調査では、地元猟友会の方々にご協力をいただきその回答を集計しました。
 この調査はカモシカの目撃、ため糞(ふん)、角(つの)こすり跡(あと)など、特有の生活痕跡(こんせき)の確認された場所を地図上に記入し、分布地域を特定したものです。現在のカモシカ保護区域は、大滝村では県境にそった幅広い帯状となり、秩父市の浦山から名栗村の山地では三角形の飛地が設定されています。
 今回の調査結果では、この保護区の周縁部から、さらに外側に広がった分布状況が把握されました。秩父市西部の大滝村や両神村、南部の名栗村などから、秩父盆地に向かって分布が拡大したものです。武甲山麓の横瀬町や正丸峠、二子山付近などにも目撃や分布記録が知られました。また小鹿野町の一部でも分布の拡大が見られました。
 次は、今回の特別調査の主目的である生息密度についてです。
 生息密度を算出するためには、ある調査地に何頭のカモシカがいるかを調べなければなりません。この頭数を確認するのが「区画(くかく)法」と呼ばれる調 査です。一言でいうと、調査員が山地に入り一定の面積の林内を歩きながら、カモシカを目撃しようとする調査で、主に冬の落葉期に行われます。
 現地調査では、各区画を踏査する調査員が重要な役割を果たします。具体的には、調査地点として設定された面積70〜90haの山地を10〜15区画に区分し、そこへ20名前後の調査員が入り各区画を分担します。そして調査開始と共に、現地を地形状況に応じて見落とし場所のないように歩きます。調査員は自分の位置が特定できるように、調査地の5千分の一の地形図をはじめ、高度計や磁石、双眼鏡などを持ちます。そして絶えず自分の位置を確認し、地図上に踏査ルートを記録しながら、カモシカを発見すべく行動します。また無線機によって他の調査員と連携をとりつつ調査を進めていきます。
 カモシカの目撃頭数や場所、走り去った時間や方向、獣道(けものみち)の確認や角こすり跡、ため糞など各種の生活痕跡を探り、記録し、行動の様子を推定します。約2時間の調査時間が終了すると、最後に調査員が集合し、調査結果を持ちより目撃頭数の確定を行います。
 これらの結果が調査地面積などのデータとともに統計的に処理され、生息密度が算出されます。
 今回の生息密度調査地は、平成4・5年度の2か年に県内で地点を選定しました。
 ちなみに、山中でどの程度カモシカやシカが目撃できるものなのか、今回の調査結果から述べてみます。
 10か所の生息密度調査地のうち、5か所においてカモシカが目撃され、6か所においてシカが目撃されました。これ以外の4か所の調査地では未確認でした。
 目撃頭数が多かったのは大滝村の矢岳沢で、カモシカ4頭とシカ4頭が目撃されました。また名栗村有間山系の大渕入沢では、カモシカ3頭とシカ4頭が目撃されました。さらに秩父市浦山の細久保谷では、カモシカ2頭とシカ9頭が目撃されました。そして大滝村の久度の沢と、最も標高が高かった奥秩父の雁坂嶺ではともにカモシカ1頭が確認されました。
 この「区画法」という生息密度調査では、カモシカやシカ以外にもいろいろな動物に出会うことがあります。今回の調査では、イノシシやムササビ、リス、テン、ノウサギなどが調査員によって目撃されました。その度に調査員は肝を冷やしています。
 以上、カモシカ特別調査の概要を紹介しましたが、今回の調査では大滝村の一部においてカモシカの生息状況が充分に把握できなかった場所がありました。今後はこのような地域を調べることが必要と思われます。
 終わりになりましたが、この調査を実施するにあたり多くの方々のご協力をいただきました。
 終始ご指導頂いた文化庁記念物課、また季節的にも厳しい時期に、体力と気力で調査を遂行していただいた「埼玉県カモシカ特別調査団」、そして東京大学秩父演習林、秩父営林署、地元の方々、関係諸機関等には大変お世話になりました。また当館職員にも現地でお手伝い頂きました。皆様に厚く御礼申し上げます。

(まつもと みつお・動物課長)


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