埼玉県立自然史博物館 自然史だより 第24号 1994.07

年 輪 の は な し(1)

太 田 和 夫

 今、あなたが居る部屋を歩き回って、天井、床、壁、窓、扉と周囲を見回して、建材の表面の模様をじっくり観察してください。
 よほど特別なつくりでない限り、部屋のどこかに木材が使われていて、木の幹を縦に切った時にできる規則的な模様が見られることでしょう。この模様は、木の幹が毎年外側に向かって生長する時にできた、「年輪(ねんりん)」の模様なのです。つまり日本人は、「年輪」にかこまれて生活していると言うわけです。
 では木を切ったときに、どんな模様が出てくるでしょう。まず「柱」を見てください。ふつう1本の柱は1本の丸太からつくられます。この「柱」には、どの面にも上すぼまりの平行線があり、中心付近では線の幅が広い、逆U字型でつながっています。この模様は、厚紙でできた細長い円錐(えんすい)形を重ねて、中心をはずして縦に切った時にできる模様(A)と同じで、「板目(いため)」と呼んでいます。床板や扉にも同じような模様が見られます。
 次に「長押(なげし)」に目を移してください。長押には、わずかに右または左下がりの平行線が見られます。この模様は、重ねた円錐形を中心で縦に切った時にできる模様(B)と同じで、「柾目(まさめ)」と呼んでいます。柾目の板を使う場合は、幹の中心にある「髄(ずい)」をはずして使います。柾目模様は、長押のほか鴨居(かもい)や障子(しょうじ)の枠でも見られます。
 では、木の幹を横に切ったときの模様は、どこで見られるでしょう。幹を横に切ったときの切り口を「木口(こぐち)」と呼んでいますが、あなたの家がログハウスでもない限り、木口面が見られる場所はほとんどありません。ちょっと面倒ですが、障子を外して縦の枠が敷居(しきい)とあたる面を見てください。そこには、同心円の一部と思われる、何本もの緩(ゆる)やかなカーブが見られます。これが木口の模様です。この模様は、重ねた円錐形を横に切った時にできる模様の一部です。
 では、年輪はなぜできるのでしょう。
 木の幹や枝の先端には、頂端細胞(ちょうたんさいぼう)と呼ばれる活発な細胞があって、幹や枝を生長させています。幹を太らせる働きをする組織「形成層(けいせいそう)」もこの頂端細胞からつくられます。形成層は細胞分裂をして、内側に根から葉に水分や養分を送る通道組織(つうどうそしき)のある木部(もくぶ)と、外側に葉から幹や根に糖分を送る通導組織のある師部(しぶ)をつくります。木の種類によってさまざまな形態をし、樹種を見分ける手がかりになる樹皮(じゅひ)は、古くなった師部です。また、私たちが木材として利用している部分は木部で、水や養分を運ぶ働きのほか、糖分を貯蔵する働きもあります。木の種類によっても異なりますが、古くなった木部には樹脂(じゅし)や色素が沈着し、赤みを帯びてきます。長押などで見られる紅白の模様は、新しい木部と古い木部の色の違いを利用しているものです。古くなった木部は、木部本来の通道や貯蔵の働きを失ってしまいますが、組織が固くなり幹を支える働きをしています。
 ところで陸地の気候は、雨季や乾季あるいは春夏秋冬などの、周期的な変動を繰り返しています。そして樹木の生長は、この周期的な気候の変動に左右されて、早くなったり遅くなったりします。板や柱あるいは木の切り口(木口)で見られる「年輪」は、樹木の生長速度の周期的な違いからできたものです。したがって、気候に周期的な変動のほとんどない熱帯では、樹木に年輪ができません。熱帯産のラワン材に年輪が見られないのはこのためです。日本のように季節的な周期の明らかな地域では、樹種によっても異なりますが、いずれも年輪がつくられ、樹木の生長の善し悪しを判断することができます。当然のことですが、樹皮にも木部と同じように年輪ができますが、こちらは幹の肥大(ひだい)生長に伴って割れたり、引っ張られて薄くなったり、はがれたりするので、生長の痕跡(こんせき)としては木部ほどははっきり残りません。

(おおた かずお・植物課長)


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