西 田 高 久
1 はじめに
2 鉱物とは
今、自然界には約4000種の鉱物が知られています。それらが集まって岩石や鉱床を形づくっているのです。鉱物は、宝石・装飾用品・医薬品・工業的利用など、人との関わりも深く、古い歴史があります。
岩石を構成する粒子としての鉱物(造岩鉱物と呼ばれる数十種類程度のもの)は、火成岩ができる過程(マグマの結晶分化作用という)での晶出(しょうしゅつ)や変成作用により再結晶し、地下深くの高温・高圧の条件や冷却の速さ・空間(晶洞)の発達程度によって、大小さまざまな結晶に成長します。
一方、特定の化学成分が濃密に集まり、鉱物の結晶集合体を形成する部分を鉱床(こうしょう)といいます。
そして、有用な金属を多量に含む鉱物を特に鉱石と呼び、地下資源として採掘されます。これらの鉱物も、やはり地下の様々な条件により、それぞれ見事な結晶に成長するのです。
鉱物は、それぞれ特有な性質を持っており、これを手がかりに鉱物の鑑定(かんてい)をすることができます。
3 埼玉県唯一の金属鉱山・秩父鉱山の鉱物
秩父高山は、大滝村の中津川上流にあり、鉄や亜鉛(あえん)の他、金・銀・銅・鉛(なまり)・マンガン等を含む鉱石を産出していました。特に鉄鉱石は、日本の鉱山の中でも有数の産出量を記録したこともあります。この鉱山の特色は、鉱物の種類が多く、結晶が大きいことにあったのです。
歴史も古く、すでに慶長年間(1600年間)には金が採掘されていたと伝えられています。また、江戸時代には、平賀源内(ひらがげんない)が金鉱を求めて入山していました。後に、明治から大正にかけて、盛んに金鉱・鉄鉱の開発が行われ、昭和15年頃より本格的な操業が開始されました。最盛期の頃は、中津・滝上・大黒・和那波(わなば)・六助・赤岩・道伸窪(どうしんくぼ)の各鉱床がありましたが、昭和48年以降は、金属鉱石の採掘は中止され、現在は、「珪石(けいせき)」と「大理石」だけが採掘されています。
鉱床は、第三紀中新世(約500万年前)に、秩父中古生層(約2〜3億年前の地層で、石灰岩・チャート・頁岩(けつがん)・粘板岩(ねんばんがん)・輝緑凝灰岩(きりょくぎょうかいがん)等からなる)中に石英閃緑岩(せきえいせんりょくがん)質マグマが貫入(かんにゅう)し、周囲に熱変成作用を与えるとともに、化学成分の移動があり、様々な鉱物が形成されたのです。このようにできた鉱床を、「接触交代鉱床」と呼びます。
特に、石灰岩の近くでは、「スカルン帯」という縞状鉱脈の部分が形成され、化学成分の移動が活発にあり、カルシウム・ケイ素等を含む「スカルン鉱物」ができます。これらの代表的な鉱物として、ザクロ石・ベスブ石・珪灰石・斧石・透輝石・緑簾石(りょくれんせき)などの良質結晶を多産したことも秩父鉱山の特徴の一つでした。
(1)「秩父金山」の誇り 自然金
「金(Au)」の採掘の歴史は古く、秩父鉱山は別名「秩父金山」とも呼ばれていました。「山金」としての自然金は閃亜鉛鉱(せんあえんこう)に伴い、ヒモ状または微細な結晶集合体として産出します。
金は、外観の色と条痕色(じょうこんしょく)が同じ黄金色で、硬度は2〜3で軟らかく、展性(てんせい)に富み、比重は16〜19と幅があります(銀の含有により低下する)が、鉱物のうちでもかけ離れて大きいのです。
また、長瀞付近の荒川は大きく屈曲し、瀞と瀬を繰り返す変化に満ちた流れを刻(きざ)んでいます。
このため、上流から運ばれた砂やレキに混じって、秩父鉱山に源を発すると考えられる「砂金」が採取されたことでも知られています。砂金は、1mmほどの粒状ですが、一日気長にやっても一粒採れるかどうかという程度です。採取は、水際の植物の根にまつわり付く砂を採り、「わんかけ法」で比重の小さい鉱物・砂粒を洗い流していく方法が効果的です。ただし、天然記念物指定区域内では採取は禁止されていますので、ご注意下さい。
(2)鉱物収集家に人気の高い鉱物 車骨鉱(しゃこつこう)
秩父鉱山特産の鉱物の一つで、鉛を主成分とし、他に銅・アンチモンを含む硫化鉱物で、複数の結晶が規則的に集合してギザギザの凹凸があり、この外観が歯車に似ていることから名称がつきました。
当企画展への協力者の一人・陳 詒漢氏によると、25年ほど前に東京で世界地質学会が開催されたおり、世界の著名な鉱物学者多数が秩父鉱山へ見学に来たそうです。そして、その時のお土産に「車骨鉱」の結晶を1個づつ渡したところ、学者達の喜びようは筆舌(ひつぜつ)に尽くしがたいものであったとのことです。
(3)変わった形態の鉱物 毛鉱(もうこう)
「毛鉱」は、毛状をした金属光沢のある青黒色の鉱物で、鉛・鉄・アンチモンを含む硫化鉱物の一種です。また、同じ形状で、鉄を含まない「ブーランジェ鉱」という鉱物が共生することもあり、肉眼で見分けることは不可能です。
長さ数mm〜1cm程度の針状結晶は、鉱脈の晶洞に向けて成長したためフワフワしていますが、年月が経過するとベツタリと倒れてしまいスチールウールのようになってしまいます。
(4)まばゆいほどの金色の輝き 黄鉄鉱と黄銅鉱
金色に輝く黄鉄鉱と黄銅鉱は、初心者が一見して金とまちがえることが多いようです。
これらについては、条痕色・結晶・比重等を手がかりに、鑑定をすすめると良いでしょう。特に、砂金採集などでは、金の他、これらの黄鉄鉱・黄銅鉱・雲母(うんも)の風化片なども黄金色を呈するので注意が必要です。

(5)1月の誕生石になっている宝石 ザクロ石
「ザクロ(石瑠)」の果実粒に似ていることから名付けられた鉱物で、秩父鉱山産のスカルン鉱物の代表として良質のものを多産しました。
鉱物学的には、「ザクロ石」は、生成時の温度・圧力の条件やMg・Al・Fe・Ca・Mn・Cr等の含有により、14種もあるグループ名になっています。
秩父鉱山からは、主に褐色〜暗緑色の灰鉄ザクロ石(CaとFeを多く含む)と透明感のある緑色〜褐色の灰ばんザクロ石(CaとAlを多く含む)を結晶質石灰岩中に埋没した形で産することが多いようです。
(6)イタリアのベスビアス火山に由来 ベスブ石
ベスビアス火山の噴火により、マグマが上昇してくる途中石灰岩層を通過したとき、石灰岩とマグマの化学反応でできた「ベスブ石」が最初に発見されて名称がつきました。
「ベスブ石」は、Ca・Mg・Alを主成分とする暗黄褐色(あんおうかっしょく)・正方晶系のケイ酸塩鉱物で、スカルン中に産する典型的な鉱物です。
秩父鉱山では、石灰岩の接触部にザクロ石と共生して産することが多く、産状・形態ともに両者はよく似ています。
(7)軍の刃先に似た結晶の鉱物 斧石(ふせき)
三斜晶系の結晶が、手斧の刃先に見えることから名付けられたCa・Fe・Al・B(ホウ素)を含むケイ酸塩鉱物です。秩父鉱山の「斧石」は、接触変成岩の空隙(くうげき)に成長し、褐色〜暗紫色で6〜10mm程度のものを産出します。
4 鉱物の利用
私たちの日常生活において、身の回りにはいろいろな鉱物が様々な形で利用されています。
水晶や誕生石などのように、古代から宝石や結晶は迷信・神話・空想・予言・占い等の道具として使われてきました。
そして、一般家庭の日用品にも、「鉱物」が姿・形を変え、私たちの気づかない多くの部分に入り込んでいるのです。
硬く、結晶が美しく、希少価値のある鉱物は、そのまま宝石として珍重され、また多くの鉱石からは、有用な金属成分を精錬して工業的に利用されてきましたが、限りある地下資源としての鉱物の大切さをここで再認識する必要があるのではないでしょうか。
5 おわりに
今回の企画展「美しい鉱物の世界」を通して、自然の力の偉大さ・大切さを十分ご理解いただけるものと思います。
そして、今後も動物・植物・岩石・化石等とともに「鉱物」も、できる限り自然の産状を大切にし、後世に伝えることが必要です。
これだけの、貴重で多種多彩な鉱物が一堂に集められることは、もう二度とないのではないでしょうか。この開催期間中に、生きた教材として児童生徒の皆さんをはじめ、多くの県民の方々にご覧頂けますよう願っております。
なお、今回の企画展展示鉱物に関する紹介が、「埼玉新聞」の8月9日〜30日にかけて連載されますので、ご覧下さい。
◎参考図書
楽しい鉱物図鑑 掘 秀道著 草思社
楽しい鉱物学 堀 秀道著 草思社
標準原色図鑑全集 木下・小川共著 保育社
新地学教育講座 鉱物 地団研編 東海大出版
カラー自然ガイド鉱物 益富寿之助著 保育社
合成宝石の魅力 崎川範行著 保育社
ビジュアル博物館 結晶と宝石 大英博監修 同朋社
ビジュアル博物館 岩石と鉱物 大英博監修 同朋社
新版埼玉県地学のガイド 県地学教育研究会編 コロナ社

(にしだ たかひさ・主査)