埼玉県立自然史博物館、自然史だより 第11号 1990.3
放散虫が語る秩父の地質
関 根 一 昭
最近、私たちが秩父の古い地層(以前秩父古生層といわれていた地層)のことを語ろうとするとき、放散虫という小さな化石の役割がとても大切になってきています。放散虫は大きさが0.1mm程度しかない小さな化石で、その体は二酸化ケイ素という、ガラスと同じような成分からできています。放散虫の仲間は海洋にすむ浮遊性のプランクトンで、先カンブリア時代から現在までずっと生き続けています。
放散虫化石がよく見つかる岩石は、チャートと泥岩です。それらの岩石を細かく砕いて、フッ酸という強い酸性の薬品に浸しておくと、岩石の中に閉じ込められていた放散虫化石が、丸ごと飛び出してきます。特にチャートには大量の放散虫化石が含まれていて、「放散虫チャート」と呼ばれているものもあるくらいです。抽出した放散虫化石は、帽子型、竹の子型などユニークな形をしているものが多く、観察していて楽しくなります。なにしろ小さな化石ですから、顕微鏡で数十倍程度に拡大しないと見ることができません。
放散虫は進化の速い生物であるため、放散虫化石が含まれている地層の年代を決定するのにたいへん便利です。たとえばチャートは三畳紀、泥岩はそれより新しいジュラ紀のものが多いことがわかってきています。かつてはチャートの年代は、コノドントという化石により断片的にしか知ることはできませんでしたし、泥岩の年代にいたっては全く手がかりがなかったことを考えれば、放散虫化石のもつ価値は非常に高いものがあります。
秩父地域の古い地層をつくる代表的な岩石であるチャートと泥岩について、野外で見られる様子を写真に示しました。中央部にある白いだ円形の岩石がチャートで、大きさは約1mあります。その周囲をとりまく短冊状の岩石が泥岩です。チャートのブロックがすっぽりと泥岩の中に埋め込まれたような堆積状態を示していることがわかります。
チャートと泥岩の年代は前述したように、チャートの方が泥岩よりも古く、その差は数千万年にもおよびます。年代の異なる岩石が同時に堆積することは一般的にはありませんから(礫岩の場合を除く)、この事実は大きな意味合いをもっています。同様の状況は、石灰岩(フズリナ化石により、その年代が石炭紀〜二畳紀であることがわかっている)と泥岩の間にも認められます。またかつて輝緑凝灰岩とよばれていた緑色岩も、その年代は明らかになっていませんが、泥岩との関係は同様の内容になっているものと考えられています。
このような新しい事実をもとにして、今秩父の古い方の地質の解釈は大きく変貌しつつあります。武甲山や両神山そして城峯山などの秩父の名峰はいったいどのようにして形成されたのでしょうか。これからの発展がたいへん楽しみです。
(せきね かずあき・県立小鹿野高等学校教論)
関根一昭さんは、平成元年度埼玉県長期研修教員として、1年間当館で研修を積まれました。
テーマは、「生徒が理解しやすく、興味をもつ地学教材の開発」でした。学校に戻られてからの活躍が期待されます。
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