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つきじ(3)
(入間市)

最近、仕事で土日がつぶれたり、風邪をひいたり、はたまた雨が降ったりして、なかなかゆっくりくつろげる週末がなかったのだが、久しぶりに何の用もなくて、天気もよいから、買物に出かけることにした。国道の脇に川が流れていて、川の周辺は気温が低いためか、紅葉がはじまっている。なかなか、きれいである。天気もちょうどよくて暑くもなく、寒くもない。窓から風を入れて走ったが快適だった。行楽シーズンだけあって、車は、それなりに混んでいる。私にとっては通いなれた道なので、前にいるおそらく観光客の車がやけに遅く感じられる。昼飯は、何にしようかと、少し悩んだが、久しぶりに入間のつきじに行ってみることにした。
何の変哲もない交差点を曲がり、目印のセブンイレブンのところを曲がって路地に入り、つきじに到着した。前回チベットツアーで訪れた以来の訪問である。入口の右側が、ガラス張りになっていて、うどんの製造過程を覗き見ることができるが、ちょうど、大将がうどんを延ばしているところだった。ドアを開けて、奥の座敷に座り込んだ。いつも、肉汁うどんを注文していたのだが、たまには違う、かけ系を頼んでみようかと、メニューをながめたら、釜あげうどんが、あったので、今回はそれを注文することにした。大中小の区分があるが、中にした。前回の讃岐うどんツアーで釜あげうどんの旨さに目覚め、釜あげうどんが自分のマイブームである。
スポーツ新聞を読みながら、待つ。私とほぼ同じ時間帯に入ってきた客が注文していたざるうどんが先に届いて、そのざるうどんが、食べ終わっても、私の釜あげうどんが、来ない。どうやら、うどんをゆでる段階からはじめているらしい。何も知らぬ客なら、何で来ないんだ。俺の注文忘れたのか!と不機嫌になるところだが、私の場合は、逆である。それだけ手間暇をかけてくれるとは、ありがたいことだし、期待できる。世の中には、釜揚げうどんといっても、茹で上がったうどんを一度水で洗って温度を冷やして、せいろに並べて少し時間がたったものを、またお湯に入れて、釜揚げです、どーぞ。と客に提供する店だって少なからず存在する。50円の天ぷらに醤油をかけたのをつまみながら、待つ。
釜あげうどんが、届いた。これは、すごい。うまい釜あげうどんは、見ただけで分かる。これは、本物の釜あげうどんである。白濁した茹で汁の中を泳いでいる麺は、少し太めで四角さを残しながら、腰があるのがはっきりわかる。しかし、お盆の上には、釜あげうどんが入った丼と薬味のネギ、鰹節、わかめがのっている小皿しかない。そうだ、つけ汁がないではないか。忘れたのかと思いきや、店員さんに「醤油で調整しながら食べてください。」と先に言われた。つまり、茹で汁に醤油を入れて食べるのが、ここの流儀らしい。こういう食べ方があるとは、新しい発見だった。
まずは、醤油を入れずに、そのまま食べてみる。あつあつの麺が、口の中で暴れる。つきじ独特の固さを持つ麺は、この釜あげうどんでも、健在であった。そうそうこの感触が釜あげうどんの醍醐味だ。茹で汁は、うどんの中の塩分が溶け込んでいるので、しょっぱい。かつおとネギの味が浸透してきて、つけ汁がなくとも、味気なくはない。その後、醤油を加えつつ、無心にくらいついた。物理学の究極の真理を知らなくとも、ニュートン力学の初歩さえ知っていれば、無難に日常生活をこなすことができる。うどんにおける究極の真理は、どんなものか、もちろんわからないが、うどんの原初的な形態を残しているかのようなこの釜揚げを食べることなしに、その真理へたどり着くことは、できないであろう。
平成16月11月6日
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