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水香苑

(水沢) 

 坂東16番札所の水沢観音寺は、十数軒の水沢うどん店を見守るような坂の上にある。水沢観音という名前のとおり、観音様がご本尊であろうが、実は、同じ敷地内、本殿のすぐ隣に弘法大師と書かれた小さな建物がある。

 建物の立派さからみて、この地では、どうみても、観音様の方が強い力をもっていそうだが、観音様を中心とする思想的体系と弘法大師すなわち空海を中心とする思想的体系が、この水沢の地で融和し、微妙なバランスを保っているということは、日本のうどん事情を理解する上で、深い示唆を与えてくれると考えている。

 この両者の関係を水沢うどんと讃岐うどんという単純なモデルに置き換えるのは、もちろん暴論であろうが、この二つの思想的体系を連結する膨大な回路のどこかには、これらのうどんに関して、なにかものすごい情報が、隠されているような気がしてならない。国会で、誰がうそをついているか、という情けない議論をしている暇があったら、この問題について、討議してもらいたいと思っている。

 今年は、暖冬なのだろうか、雪が降らない。毎年この季節に水沢に行くときには、道に雪があることが、多いのだが、今年は、雪のかけらもない。車で運転していると、暑いくらいである。それでも、水沢は、少し標高が高いので、少しは寒いかと思っていたが、暖かかった。そういえば、水沢は、標高が高い。うどんを茹でる水の沸点は100度だが、標高が高くなると、沸点が低くなる。沸点が低いことが、水沢うどんの特質に影響しているのではないかという仮説を思いついたことだけに満足し、うどん街道を下りながら、うどん屋を探す。

 水沢方面で未入店のうどん屋が、少なくなってきたので、今回は、あっさり決めることができた。水香苑といううどん屋である。派手なうどん屋が、多い水沢うどんの中では、ちょっと、地味な感じのうどん屋である。まだ、開店直後の11時。客は、他に誰もいない。店に入ると、奥の座敷に通された。

 奥の座敷からは、榛名山が、よく見える。メニューを吟味し、シンプルなざるうどんの大盛りにした。開店直後だったため、まだ、うどんを茹でる鍋が温まっていなかったからだろうか、予想より、かなり長い時間がかかった。退屈凌ぎに備え付けのコロコロコミックを読みながら、うどんを待つ。水香苑という名称の「苑」という文字がつくうどん屋は、珍しいのではなかろうか。韓国系の焼肉屋とかになら、ありそうな名前である。建物の内部を見ると、なんとなく、以前ソウルで入った韓国の伝統料理屋の雰囲気に似ている。私が、勝手に思い込んでいるだけかもしれないが、やはり、水沢うどんは、韓国文化の影響が大きいと思った。

 やがて、うどんが、届いた。農作業に使うような竹で編んだ器に入っているうどん。そのうどんの上にしいたけやのりがのっている。麺は割合細め。汁はごまだれ。水沢うどんを評してイカ刺しのようなうどんという人がいるが、まさしくそんな感じのうどんだった。麺とごまだれは、よく調和しているが、麺だけでは、少々味気ないかもしれない。観音菩薩は、男性神なのか、それとも、女性神なのかという議論があるそうだが、そういう観点から水沢うどんをみると、おもしろいし、新たな発見があるのかもしれない。

 

平成14月1月26日

 

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