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一滴八銭屋(9)

(新宿) 

 東京の11月は、紅葉の盛りである。私が住んでいる極東チベット地方という田舎では、すでに紅葉は終わりかけているが、新宿西口のビル街にある街路樹は、色鮮やかに変色している。都会の高層ビルに反射する鮮やかな色と極東チベット地方の山の紅葉の色、それだけを取り出せば、そんなに違いは、ないはずだろうが、周りの環境により、その趣が異なってくることは、否定できない。

 新宿方面に所用があったので、昼飯は、一滴八銭屋でうどんを食べることにした。新宿方面で飯を食べるとなると、ここしか思い浮かばない。パソコンショップを冷やかしながら、ビル街を進む。いつもなら、店の前に呼び込みがいるのだが、今日は誰もいなかった。ここの階段は、狭いので上から降りてくる人を下で待ち、ほぼ1年ぶりとなる階段を上り、2階に向かうことにする。若干重めの入り口を開くと、客は、5人ほど、カウンターに座っていた。いつものとおり、カップル客とか、女性同士の客が多い。

 とりあえず、カウンターの真中あたりの席を確保し、メニューを眺める。黒肉うどんか、白肉うどんにしようか悩んだが、体があたたまりそうな黒肉うどんにした。紅葉が、周りの環境により受ける印象が変わるように、同じ麺を使っていても、白肉うどんの麺と黒肉うどんの麺には、結果として差異が発生してくる。うどんは、周りの環境に影響を受けやすい食べ物である。これは、うどんの宿命であるが、麺は汁を吸い込み(汁が麺に浸透し)、一体化してしまう傾向がある。うどんを判断する際に、周りの環境に迎合するかどうか、それとも自己存在をつらぬくかどうか、これは、重要な指標のひとつであると考えている。

 注文を受けてから麺を茹で始めた。少し待って、黒肉うどんが、届いた。牛肉と、おそらくしょうがのにおいが、たまらなくおいしそう。以前食べたときより、肉が多めで、汁の色は若干、黒さが薄れたような気がするが、実際のところは、どうなのだろうか。バリバリハードな讃岐うどんと比べれば、周りの環境に迎合とまではいかなくとも協調を図っていると判断した。汁を飲み干して、支払いを済ませて、新宿の雑踏に消えた。

 

平成13月11月25日

 


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